あれはいつだったか。
まだ民進党があった頃。
同党の憲法調査会(枝野幸男会長)で、憲法第1章(第1~8条)について
レクチャーを依頼された。多数の国会議員が参加していた。
私の席の左側に会長の枝野衆院議員。
右側に事務局長(?)の辻元清美衆院議員が座っておられたはずだ。私はいつものように、座を和(なご)める為に、
軽いジョークを辻元議員に投げ掛けた。「辻元さん、憲法は(戦争放棄を定めた)第9条から始まっているんじゃなくて、
(天皇を象徴と規定した)第1条から始まっているんですよ」と。これで会場から軽い笑いが起これば、「天皇」という、
いささか難しそうなテーマにもすんなり入っていける、
という私なりのサービス精神の発露…のつもりだった。ところが、辻元氏は、「分かっています! そんなことは」と
真顔(まがお)で答えられた。
これでは台無し。「嫌だなぁ。
辻元さん、ジョークですよ、ジョーク」と受け流して本題に入った。
この時の、辻元氏の過敏とも思える反応は、私にとって小さな謎のまま残った。
再びところが、先頃、ある本を読んでいたら、
平成12年11月3日に開かれた憲法関連のシンポジウムでの、
辻元氏の発言が引用されていた。「私はいま『護憲派』と言われているわけですが、本当のことを言えば、
1条から8条はいらないと思っています。
天皇制を廃止しろとずっといっています。
…日本国憲法は9条から始め、天皇は伊勢にでも行ってもらって、
特殊法人か何かになってもらう。
財団法人でも宗教法人でもいいけど」と。
こんな発言は知らなかった。
恐らく同じような発言は、あちこちでされていたのだろう。しかしその後、同氏は、考え方を改めておられる。
例えば、平成21年11月13日の上皇陛下の御即位20年をお祝いする
宮中での茶会にも、当時はまだ社民党に所属されていたものの、
ちゃんと正装して出席されていた。
偶然、その場に居合わせられた漫画家の小林よしのり氏から、
(反天皇のはずなのに)何故、出席しているのか問い詰められると、
「私は日本国憲法に天皇が規定されているから来たのよ」と言い張られたとか
(小林氏『新・天皇論』第3章)。この頃には、既に第1~8条削除論は撤回されていたようだ。
そのような経緯があったのであれば、私の発言は、辻元氏にとって、
(せっかく治りかけた傷口に、わざと塩を塗り込むようなものだから)
この上なく挑発的又は屈辱的だったに違いない。会の冒頭から、喧嘩を売っているに近い(勿論〔もちろん〕、
私にそんな意地悪な気持ちは、爪〔つめ〕の先ほども無かったのだが)。
ムキになられたのも無理はなかった。
やっと小さな疑問が氷解した。過去の発言を知らなかったとは言え、大変失礼なことをしてしまった。
辻元氏は、今やご自分のホームページに、小林よしのり氏の応援メッセージを
同氏の似顔絵入りで、これみよがしに掲げておられる。
人は変わるし、成長もするのだろう…きっと。【高森明勅公式サイト】
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